日本で紫陽花といえば、まず青が浮かぶ。梅雨の重い空の下で、あの色だけが冷たく澄んでいる。
なぜ日本で青が多いのか。そして、あの青がどうやって作られているのか。調べていくと、思っていたより厳しい話が出てきた。
青は、色素だけでは出ない
紫陽花はアントシアニンという色素を持っている。だがこの色素は、そのままでは青くならない。赤紫にしかならない。
青になるには、三つのものが同じ細胞の中で揃う必要がある。色素そのもの。アルミニウムのイオン。そして助色素と呼ばれる別の物質。この三つが結びついて、はじめてあの青が立ち上がる。ひとつでも欠ければ、青にはならない。
青は、一つのものだけでは出せない色だ。
アルミニウムは、本来なら毒である
問題は、二つめのアルミニウムのほうだ。
アルミニウムは、多くの植物にとって毒である。酸性の土では土の中のアルミニウムが溶け出し、根に触れると根の伸びを止めてしまう。酸性土で作物が育ちにくい理由の大きなひとつが、これだ。多くの植物にとって、酸性の土は「アルミニウムが溶けている危ない土」を意味する。
紫陽花は、そこに根を張る。溶け出したアルミニウムを吸い上げ、体の中を通し、花に見える部分まで運ぶ。そして色素と結びつけて、青にする。
他の草が避けるものを吸って、色に変えている。
だから、日本の紫陽花は青い
日本は雨が多い。雨は土の中の石灰分を長い時間をかけて洗い流していくので、土は酸性に傾きやすい。酸性の土ではアルミニウムが溶ける。溶けていれば、紫陽花は吸い上げる。
つまり日本の紫陽花の青は、この国の雨が作った色だ。梅雨に青いのは、偶然ではない。雨がその色の材料を用意している。
青の濃い株は、それだけ酸性の土に立っているということでもある。あの色は、痩せた土の側から出てくる。
リトマス試験紙とは、逆になっている
理科で習うリトマス試験紙は、酸性で赤くなり、アルカリ性で青くなる。紫陽花はその反対だ。酸性の土で青くなり、アルカリ寄りで桃色になる。
並べてみると、きれいに逆さまである。
もっと不思議なことがある。紫陽花の持っているアントシアニンという色素そのものは、試験管の中では、リトマス試験紙と同じ向きに変わる。酸性で赤、アルカリ性で青から緑へ。ふつうの指示薬と同じふるまいをする。
そして、紫陽花の細胞の中は酸性である。
つまり、細胞の中の酸性度だけで決まるのなら、この花はいつでも赤——桃色になるはずなのだ。
それでも青くなるのは、アルミニウムが来たときだけだ。色素と、助色素と、アルミニウムのイオンが一対一対一で結びついて、青い錯体をつくる。この結びつきができたときにだけ、青が立ち上がる。
だから土の酸性度は、色素に直接はたらいているのではない。土の中のアルミニウムを溶かして、根が吸える形にしているだけだ。酸性は、アルミニウムが通る道を開けている。
紫陽花は「生きたリトマス試験紙」と呼ばれることがある。色の変わる花として、よく分かる呼び名だと思う。ただ、この花が映しているのは酸性度そのものではなく、その土から、アルミニウムを受け取れたかどうかのほうだ。
——指示薬になれる色素を体の中に持ちながら、その働きを、外から来たものとの結びつきで塗り替えている。
色は、その株が通ってきたもの
白い紫陽花は、色素を持たないので土に染まらなかった(白い紫陽花——土に染まらない、という色)。青い紫陽花は、その逆をやっている。土から来たものを、まっすぐ受け取っている。
受け取ったものが毒であっても、体を通して、色にしてしまう。
——きれいな話にしすぎないように書いておくと、これは紫陽花が偉いという話ではない。アルミニウムに強い体を持っていた、というだけのことだ。持って生まれた性質が、たまたまその土に合っていた。
それでも、起きていることは動かない。他の草なら根を止められる場所で、この草は色を出している。
気をつけていただきたいこと
紫陽花は口に入れてはいけません。過去に、料理の飾りに使われた葉を食べた人が嘔吐などを起こした事例があり、行政から注意が出ています。原因物質はまだ特定されていません。料理に添えない、子どもやペットが口にしないように——それだけは守ってください。
おわりに
青は、遠くから見ると涼しい色だ。近くで何が起きているかを知ると、少し見え方が変わる。
雨に洗われて痩せた土。そこに溶け出した、他の草には毒であるもの。それを吸い上げて、いちばん人目につく場所まで運んで、色にしている。
——涼しい顔をしている、というのは、こういうことかもしれない。
▶ 草花研究の目次へ

