麦わら帽子みたいな花だと思う。花びらがぎゅっと詰まって、縁が丸くて、夏の花壇でいちばん機嫌がよさそうに見える。子どもが描く「花」の絵に、いちばん近い形かもしれない。
ところが花言葉を引くと、そこに「嫉妬」「悲しみ」「絶望」が並んでいる。この顔で、なぜその意味なのか。今回はそこを考えたい。
マリーゴールドという花
キク科。原産はメキシコから中央アメリカにかけて。日本の花壇でよく見るのは、小輪でたくさん咲くフレンチ・マリーゴールド(和名・孔雀草)と、大輪でぼんぼりのように咲くアフリカン・マリーゴールド(和名・千寿菊、万寿菊)の二つの系統だ。
ややこしいことに、フレンチもアフリカンもどちらもメキシコの花である。ヨーロッパに渡ってから、入ってきた経路の名で呼ばれるようになった。花のほうは、一度も名乗っていない。
名前の由来は「Mary’s gold」——聖母マリアの黄金だと言われている。聖母に捧げられた花、マリアの祭日に咲いていた花、という言い伝えがある。
春から霜が降りるまで、長いあいだ咲き続ける。花壇の縁取りによく使われるのは、この丈夫さと花期の長さのためだ。
花言葉を、まず並べてみる
花言葉は本によって違う。ひとつに決めずに、出てくるものを並べておく。
全体として:変わらぬ愛/健康/勇者
黄色:嫉妬/悲しみ/絶望
オレンジ:予言/真心/熱情
フレンチ・マリーゴールド:いつも側に置いて/濃厚な愛情
アフリカン・マリーゴールド:逞しい
並べてみると妙なことに気づく。同じ花に、「変わらぬ愛」と「嫉妬」が同居している。正反対のようでいて、実はこの二つは、人の中では隣り合っている感情でもある。
なぜ「嫉妬」なのか
調べていくと、理由になりそうな筋道が四つ出てきた。どれも確定ではない。花言葉の由来は、たいていはっきりしない。それでも、並べると見えてくるものがある。
① 黄色という色が、背負ってきたもの
これがいちばん実際的な理由だと思う。ヨーロッパでは長いあいだ、黄色は「裏切り」「不実」の色だった。宗教画で裏切り者に黄色い衣を着せる約束事があり、その連想が色そのものに染みついた。
だから黄色い花には、嫉妬や不実の意味が乗りやすい。黄色いバラも「嫉妬」、黄色いカーネーションも「軽蔑」とされる。マリーゴールドは、黄から橙のいちばん代表的な花だ。花の性質ではなく、色の履歴が意味を運んできた。
② 太陽を見つめ続けた娘の話
ギリシャ神話に、太陽の神に恋した娘の話がある。神の心が別の女性に移ったことに耐えられず、娘はその相手を密告して破滅させ、自分は嘆きながら太陽を見つめ続け、ついに花になった——という筋だ。
この花が何であったかは伝承によって揺れる。ヘリオトロープとも、向日葵とも語られる。マリーゴールドとして語られることもある。太陽に向かう黄金色の花、という一点で、これらは入れ替わりやすい。
嫉妬と、その果ての絶望。物語のほうが花に貼りついた、という筋道である。
③ 死者に手向ける花だった
マリーゴールドは、死と強く結びついた花でもある。
メキシコの「死者の日」では、この花(センパスチル)が墓と祭壇を埋め尽くす。強い香りと橙色が、死者の魂を家まで導くと考えられている。インドでも、祭礼や葬儀の花輪に大量に使われる。
死者に手向ける花である以上、そこには別れがある。「悲しみ」「絶望」は、この用途から来た意味だろう。
④ 土の中で、この花がやっていること
最後は、見た目からいちばん遠い理由である。
マリーゴールドには独特の強い匂いがある。和名のひとつに「臭菊」とつけられたほどだ。そして根からは、土の中の小さな生きもの——作物の根に寄生するセンチュウ——を減らす働きのある物質が出る。畑の隅にマリーゴールドが植えてあるのは、飾りではなくそのために植えられていることが多い。
可愛い顔をして、土の中では他者を寄せつけていない。
考察——「嫉妬」は、落差につけられた名前ではないか
四つを並べて、私が思うのはこういうことだ。
この花は、明るい。いつまでも咲いている。丈夫で、枯れにくい。それでいて匂いが強く、根の下では他の生きものを退けている。顔と中身のあいだに、はっきりした落差がある。
人は、この落差にとても敏感だ。明るいのに近寄らせないもの、機嫌よく見えるのに隙のないものを前にすると、落ち着かなくなる。そして落ち着かなさに名前をつけたくなる。
この落差の前に立った人が、そこに「嫉妬」という名を置いた。落ち着かなさの正体を、言葉にしようとした跡が、この花言葉なのだと思う。
かたちにも、色にも、匂いにも、力が宿っている。花言葉は、その力を読み解こうとして挑んだ、その証だ。花の側から出たものでも、人の側から出たものでもなく、その二つが出会ったところに残っている。
同じ花が、正反対に読まれている
証拠のような話がある。マリーゴールドは、場所によって読まれ方がまるで違う。
ヨーロッパでは聖母の黄金。メキシコでは死者を家へ導く灯り。インドでは祝いと祈りの花輪。そして日本の花言葉の辞典では嫉妬。
花は、どこでも同じ顔で咲いている。姿は一つ、意味は四つ。
同じ姿から、これだけ違う読みが生まれた。それだけ、この花には読み解かれるだけのものがあったということでもある。
気をつけていただきたいこと
強い毒を持つ花ではありません。ただしキク科なので、体質によっては触れると皮膚がかぶれることがあります。
食用の品種もありますが、園芸用として売られている苗は食べるために作られていません(薬剤が使われていることがあります)。花壇や鉢の花は口に入れない。犬や猫が食べると胃腸を壊すことがあるので、そちらもご注意ください。
おわりに
麦わら帽子みたいな花だ、という最初の印象を、私は取り下げないでおこうと思う。
明るくて、丈夫で、長く咲く。同時に、匂いが強くて、土の中では譲らない。その両方を持ったまま、夏の花壇の縁で、いちばん機嫌がよさそうな顔をしている。
——嫉妬という名をつけられても、この花はたぶん、何も変わらずに咲き続ける。
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