音もなく

露は、音を、立てない。雨は、屋根を打ち、川は、せせらぎ、海は、寄せては返す。だが、露が降りるとき、音は、しない。いちばん静かに、いちばん近くまで、来ている。大きな声で語られる善意も、ある。だが、いちばん深く届くものは、たいてい、音もなく、そ...

草も木も

露は、大きな木にも、小さな雑草にも、同じように、降りる。名のある花にだけ、降りるのでは、ない。道ばたの、名も知らぬ草にも、朝は、まるい光を、置いていく。めぐみは、選ばない。「価値がある」と、人が決めたものにだけ、注がれるのではない。すべての...

低いところへ

水は、低いところへ、流れる。露も、高い梢ではなく、地に近い、低い草に、多く結ぶ。低いところにこそ、めぐみは、たまる。偉くなること、上にいくことばかりを、人は目指す。だが、露は、下へ、下へと、降りていく。低くいることを、恥じない。低いところに...

朝いちばん

露は、朝いちばんに、光る。まだ誰も起きていない、うすい光の中で。いちばん静かな時間に、いちばん澄んでいる。騒がしさの中では、露は、目立たない。静けさの中でだけ、その光は、見える。心も、そうかもしれない。いちばん静かなときに、いちばん、澄んで...

消えてもいい

昼になれば、露は消える。朝のあいだだけの、いのち。短いと、嘆くことはない。露は、降りるべき夜に降り、潤すべき土を潤し、のぼるべき陽に、のぼっていく。役目を、果たした。だから、消えることを、おそれない。人のいのちも、どこか、露に似ている。長さ...

澄んでいること

濁った水は、染みても、土を傷める。露が土を潤せるのは、澄んでいるからだ。だから、露でありたいなら、まず、澄んでいなければならない。うらみ、ねたみ、人を下に見る心――そういう濁りを抱えたまま染み込めば、染みた先を、汚してしまう。露の善さは、そ...

夜のしごと

露は、夜のあいだに、降りる。誰も見ていない時間に、しずかに、仕事をする。朝、人が目を覚ますころには、もう、葉の上で光っている。「いつのまに」と、人は言う。本当に大切なことは、たいてい、見えないところで、進んでいる。誰かが眠っているあいだに、...

弱さ

露は、もろい。指で触れれば、すぐに、くずれる。風が吹けば、葉から落ちる。こんなに弱いものが、なぜ、土を潤せるのか。弱いから、染みるのだ。固いものは、地の上を、流れて去る。やわらかいものだけが、深くまで、届く。弱さは、無力ではない。弱さだけが...

まるい光

草の葉の露は、まるい。その小さな水玉の中に、空が、まるごと映っている。朝の光も、雲も、ひとつぶの露に、宿る。小さいことは、貧しいことではない。ひとつぶの中に、空を映せるなら、それでいい。人も、大きくあろうとしなくていい。自分の場所で、自分の...

地に染みる

露は、朝にだけ、ある。夜のあいだに、しずかに降りて、草の葉に、まるい光を結ぶ。誰も見ていなくても、露は、降りる。そして、陽がのぼれば、消える。だが、消えたのではない。地に、染み込んだのだ。露は、自分の姿を、残さない。ただ、土を、わずかに潤し...
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