字のこと
ホオズキは、漢字で「鬼灯」と書く。「酸漿」とも書く。「酸漿」は漢名で、中国での呼び名にあたる。「鬼灯」のほうは、盆に先祖が帰ってくるときの目印となる提灯に見立てて飾られたことによる、とされる。
形——袋は、萼である
ナス科。現在の学名は Alkekengi officinarum。長く Physalis alkekengi(ホオズキ属)に置かれていたが、遺伝子の解析によって別系統とわかり、独立した属として扱われるようになった。多年草。
六月から七月ごろ、小さなクリーム色の花が咲く。花そのものは目立たない。
花が終わって受粉すると、直径一・五〜二センチほどの球形の実がひとつできる。そのあと、実の周りの萼(がく)が発達して袋になり、実を包み込む。袋は直径三センチ以上にまで育つ。七月の下旬から九月にかけて、その袋が赤く色づいていく。
つまり、私たちが「ホオズキ」と呼んで見ているあの赤い提灯は、花びらではなく萼である。実は、その中にひとつだけ入っている。
名前の由来——諸説
語源には説がいくつもあり、どれかひとつに定まっていない。
・赤くふっくらした姿を「頬」に見立てたとする説
・実を口に含んで鳴らして遊ぶとき、子どもが頬を突き出すことから「頬突き」とする説
・「ホオ」と呼ばれるカメムシの類がよくつくことから、とする説
・赤い実の色から、「ホホ」は「火々」、「つき」は染まるの意である、とする説
古い名としては、アカカガチ、カガチ、カガミコ、ヌカズキなどが伝わっている。
『古事記』に出てくる
ホオズキは、日本の古い書物に姿を見せている。
『古事記』の八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の場面で、その目が「赤加賀智(あかかがち)」のようであった、と書かれている。この赤加賀智が、ホオズキのこととされる。
大蛇の八つの目の赤さを言い表すのに、この植物の名が使われている。
生息地
日本では北海道・本州・四国に分布する。東アジアに広く見られ、中国や朝鮮半島にもある。ヨーロッパにも近縁のものが入っており、英語では Chinese lantern(中国の提灯)と呼ばれる。
地下茎を伸ばして増える。日当たりのよい場所を好み、古くから畑や庭で栽培されてきた。栽培品種には、鉢物として出回る丹波ホオズキ、袋が細かく裂ける瓔珞(ようらく)ホオズキなどがある。
なお、食べられるホオズキ(オオブドウホオズキ、ストロベリートマトなどと呼ばれるもの)は別の種類で、観賞用のものとは分けて扱われる。
お盆の提灯として
萼に包まれた赤い実を、死者の霊を導く提灯に見立てて、精霊棚に飾る。これが「鬼灯」の字の由来ともされる。
帰ってくる人が道に迷わないように、目印として灯りを掛けておく。ホオズキは、その灯りの役をあてられた植物である。
花言葉
本によって載っているものが違うので、出てくるものを並べる。
自然美/心の平安/偽り/ごまかし/半信半疑/私を誘って/浮気/笑顔
由来として言われているのは、次のようなことである。
「自然美」——提灯のようなあの姿そのものから。
「心の平安」——古くから生薬として用いられてきたことから。
「偽り」「ごまかし」「半信半疑」——大きくふくらんだ袋に対して、中の実が小さいことから。外から見える大きさと、中に入っているものの大きさが違う。そこに由来するとされる。
「笑顔」——赤くふくらんだ萼を、赤く染まった頬に見立てたことから。実を鳴らして遊ぶ子どもの、頬をふくらませた姿にも重ねられる。
四万六千日——七月九日・十日
浅草寺のほおずき市は、「四万六千日(しまんろくせんにち)」という縁日に立つ。
もともと観音さまの縁日は毎月十八日だった。室町時代の末ごろから、そのなかに「功徳日」——参拝すれば何日分もの功徳が得られるとされる特別な日——が設けられるようになる。
その功徳日のうち最大のものが七月十日で、この日に参拝すると四万六千日分の功徳があるとされた。
四万六千日は、およそ百二十六年にあたる。人の寿命の限界ともいえる長さであることから、「一生分の功徳が得られる縁日」と言われる。
なぜ四万六千なのか。由来は複数あり、そのひとつに、米一升の粒がおよそ四万六千粒にあたり、「一升」と「一生」を掛けたという説がある。ただし浅草寺自身が「定かではない」と記している。
江戸時代、この日の参拝者は前日の夜から押し寄せて行列をつくった。そのため浅草寺では、七月九日と十日の二日間を特別な功徳日とするようになった。今もこの二日間である。
ほおずき市の起こり
ほおずき市が先に立ったのは、浅草寺ではない。芝の愛宕神社である。
愛宕神社の境内にはホオズキが自生していて、それを飲めば子どもの病や女性の病に効くと言い伝えられていた。そこから、千日詣りの日に合わせてホオズキを売る市が立つようになった。
浅草寺のほおずき市の起源は明和年間(一七六四〜七二)とされる。愛宕神社の市の影響を受けて、四万六千日の大本である浅草寺にも市が立った、と伝えられている。
やがて、浅草のほうが大きくなった。
雷除け——赤とうもろこしと札
ほおずき市には、もうひとつ「雷除け」がついている。
もとは赤とうもろこしだった。落雷除けのお守りになるという民間信仰があり、文化年間から売られるようになった。
ところが明治のはじめ、赤とうもろこしが不作になった。求める人の声に応じて、寺が竹串に挟んだ三角形の守護札を授けるようになる。これが今の雷除札である。
不作でいったん途切れたものが、形を変えて残った。
この花をめぐるもう一本は、こちらに置いています。
▶ 鬼灯——外装で本音を隠している花
取り扱いについて
ほおずき市や園芸店で売られている観賞用のホオズキは、食べられません。全草に微量のアルカロイドを含みます。とくに根や地下茎に含まれる成分には子宮を収縮させる作用があるとされ、妊娠中の方は口にしないでください。
実を鳴らして遊ぶときは、口に入れたまま飲み込まないように。小さな子どもとペットが誤って食べない場所に置いてください。犬や猫の誤食は危険です。飲み込んでしまったときは、すぐ医療機関へ。
食べられるホオズキ(オオブドウホオズキ、ストロベリートマトなど)は別の種類です。食用として売られているものだけを食べてください。
表紙の絵:Luna SĀYA
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