鈴蘭——地上の花より、地下のほうが大きい

草花研究

鈴蘭という花

キジカクシ科スズラン属。学名は Convallaria majalis。Convallaria はラテン語の convallis(谷)から、majalis は「五月の」という意味である。英語名も Lily of the valley(谷間の百合)。名前が、咲く場所と季節をそのまま言っている。

花期は五月から六月。細い花茎に、白い釣鐘形の花がいくつも下向きに並ぶ。

日本に自生しているものと、花屋や園芸店で見かけるものは、実は別のものであることが多い。

日本の在来種(スズラン)——北海道と、本州は中部以北の高原や草原に自生する。花茎が短く、花が葉の陰に隠れる位置で咲く。花数は少なく、香りは穏やか。
ドイツスズラン——ヨーロッパ原産。市場に出回っているものはほとんどこちら。葉はやや小ぶりだが花が大きく、香りが強い。花が葉と同じくらいの高さまで上がる。

名前のこと

和名の別名に、君影草(きみかげそう)がある。葉の陰に隠れるようにして咲くことからついた名だとされる。

もうひとつの別名は谷間の姫百合(たにまのひめゆり)。こちらは英語名からの訳にあたる。

根を張るということ

鈴蘭は、地上に見えている姿より、地面の下のほうがずっと大きい。

この植物は地下茎(根茎)を横に這わせて伸びる。その地下茎の節から新しい芽を上げ、そこにまた葉が出る。だから鈴蘭は、一本ずつばらばらに立つのではなく、群れになって広がる。

ここに、この植物の性質がある。地上に何十本、何百本と立っていても、地下ではひとつながりの同じ株であることがある。見た目には別々の株に見えるものが、根でつながった同一の個体だということだ。

北海道・十勝地方の鈴蘭の集団を調べた研究でも、この地下茎によるクローン成長が群落の広がり方を決めていることが確かめられている。種子でも増えるが、群落を作っているのは主に地下の伸びである。

庭に植えるときの注意にも、それが出てくる。広げたくない場合は、地面の下二十センチほどまで仕切りを入れる必要がある。地上で抜いても、地下でつながっているかぎり、また別の場所から出てくるからだ。

そしてもうひとつ。地上部は毎年枯れる。秋に葉が枯れて、冬には何も見えなくなる。それでも地下茎は生きていて、春になるとまた同じ場所から芽を上げる。上が消えても、下は続いている。

鈴蘭の線画。二枚の葉と、弓なりの茎に下がる釣鐘形の花

花言葉

本によって載っているものが違うので、出てくるものを並べる。

再び幸せが訪れる/幸福が帰ってくる/純粋/純潔/謙虚/意識しない美しさ

由来として言われているのは、次のようなことである。

「意識しない美しさ」「謙虚」——葉の陰に隠れて、下を向いて咲く姿から。君影草という和名と同じところから来ている。

「純粋」「純潔」——白い小さな花の姿から。ヨーロッパでは花嫁のブーケに使われてきた。

「再び幸せが訪れる」「幸福が帰ってくる」——五月一日にこの花を贈られた人には幸福が訪れる、というフランスの言い伝えから。毎年かならず同じ場所に戻ってくるこの植物の性質に重ねて語られることもある。

五月一日、ミュゲの日

フランスでは、五月一日を「ミュゲ(muguet)の日」と呼ぶ。ミュゲは鈴蘭のこと。この日、愛する人や大切な人に鈴蘭を贈る習慣がある。

贈られた人には幸福が訪れるとされる。

言い伝えでは、十六世紀のシャルル九世が五月一日に鈴蘭を贈られ、それを喜んで、以後毎年この日に女性たちへ贈るようにしたのが始まりだという。パリの街で広く行われるようになったのは二十世紀に入ってからとされる。

この日はメーデー(労働祭)とも重なっていて、フランスでは五月一日にかぎり、誰でも道端で鈴蘭を売ることができる。

伝わっている話

鈴蘭は、ヨーロッパでは「聖母の涙」とも呼ばれてきた。地に落ちた涙から、この花が生まれたと語られる。

また、聖なる香りを持つ花とされ、愛しい人にふりかけると振り向いてくれる、という言い伝えも残っている。

毒のこと

鈴蘭は全草が有毒である。そして毒の成分がいちばん多いのは、根茎——地下の、いちばん深いところにある。

含まれるのはコンバラトキシンをはじめとする成分で、心臓に作用する。有毒成分は三十種を超えるとされる。

誤って口にすると、嘔吐、頭痛、めまい、血圧低下、不整脈などを起こす。重い場合は心不全に至ることがあり、早ければ一時間以内に症状が出るといわれる。

花を活けた水にも、成分は溶け出す。五歳の子どもが枕元に置かれていた鈴蘭の花瓶の水を飲んで亡くなった例が、法医学者・上野正彦の『死体は語る』に記録されている。

もうひとつ、山ではギョウジャニンニクとの取り違えが起きている。葉の形がよく似ているためで、実際に中毒例がある。ギョウジャニンニクにはニンニクのにおいがあり、鈴蘭にはない。


yohaku

すずらん
小さな白い花が下を向いて咲くから、華やかに自己主張するというより、静かな可愛さ・慎ましさ・恥じらいを感じさせる。

スズラン
特に美しいのが、「再び幸せが訪れる」という意味である。スズランは寒い季節を越えて春に姿を現すので、「幸福が帰ってくる花」として扱われてきた。

鈴蘭
スズランは可憐で触れたくなる姿なのに、植物としては全草に毒性がある。

だから象徴として読むなら、

可愛い。
やわらかい。
近づいてもいい。
でも、好き勝手に扱っていいわけではない。

という花でもある。

しかもスズランは地下茎で広がるから、地上では小さな花なのに、見えない地下ではしっかりつながって生きている。

うつむいて咲いているからといって、
弱いわけではない。

小さく見えても、
根は、思っているよりずっと深い。

わたしは、そんな鈴蘭の
見た目以上に、自分で生きようとする意思に
心を奪われてしまう。

サーヤ


取り扱いについて

鈴蘭は全草に毒があります。とくに根の部分に多く含まれます。

切り花を飾るときは、活けた水にも成分が出ます。食卓には置かず、水を替えたあとの容器は他の用途に使わないでください。小さな子どもとペットの手が届かない場所に置いてください。

花や葉、実、根を口に入れないこと。庭仕事で根を扱ったあとは手を洗ってください。

山でギョウジャニンニクを採る方は、においを必ず確かめてください。ニンニクのにおいがしないものは採らない。

口に入れてしまったとき、また体調に異変が出たときは、様子を見ずにすぐ医療機関へ。何をどれくらい口にしたかを伝えられるようにしておくと確実です。

草花研究の目次へ

タイトルとURLをコピーしました