忘れもの

灯火

電車の座席に、手袋が、片方だけ、残されていた。

拾った女は、それを、駅員に、届けようとした。

だが、ふと、思い直して、いちばん目立つ、手すりの上に、置いた。

「探しに来た人が、すぐ見つけられるように」

落とし主のことを、会ったこともないのに、想っている。

誰かの「困るだろうな」を、想像できること。

それが、やさしさの、はじまりだ。

片方の手袋は、その夜のうちに、なくなっていた。

誰かの手が、また、あたたかくなった。

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