梅雨の、雨の続く時間。青や桃色の紫陽花が並ぶ中に、白い一株が混じっている。暗い日ほど、そこだけが遠くからでも見える。
紫陽花の色は、土が決めている
紫陽花の色は、花が決めていない。根の立っている土が決めている。
紫陽花はアントシアニンという色素を持っている。土が酸性だと、土の中のアルミニウムが溶け出して根から吸い上げられ、この色素と結びついて青になる。土が中性からアルカリ寄りだと、アルミニウムが溶けないので吸い上げられず、桃色のままになる。
だから同じ株でも、植える場所を変えれば色が変わる。「移り気」という花言葉は、たぶんここから来ている。けれど気が変わっているのは花ではない。立っている場所が違うだけだ。
白だけが、例外である
白い紫陽花は、この仕組みの外にいる。
白い品種は、そもそもアントシアニンを持っていない。色をつくる材料がない。だから酸性の土に植えても、アルカリ性の土に植えても、白いままだ。土に決められない。
ただし、ここは正確に書いておきたい。染まらないのは、強い意志があるからではない。染まる材料を、はじめから持っていないからだ。
それでも、結果として起きていることは変わらない。この花だけは、どこに植えられても自分の色でいる。理由が意志でなくても、事実は事実として残る。
白は、色ではない
色素がないのなら、なぜ白く見えるのか。
花びらに見える部分の内側には、細胞と細胞のあいだに細かな空気の隙間がある。光はその境目のたびに向きを変え、あらゆる方向へ跳ね返る。特定の色だけを吸い込むことがないので、返ってきた光がぜんぶ混ざって白に見える。雪が白いのも、泡が白いのも、同じ理屈だ。
白は、何も足していない色だ。そして同時に、受け取った光をひとつも取り込まずに、すべて返している色でもある。
——前に書いた金鳳花は、跳ね返した光を自分の中心に集めて、芯を温めていた。白い紫陽花は、集めない。ただ返す。同じ「光を返す」でも、やっていることが違う。
花に見えているものは、花ではない
紫陽花で花びらに見えている四枚のものは、花びらではない。萼(がく)が変化したもので、装飾花と呼ばれる。本当の花は、その中心にある小さな粒のほうだ。
装飾花は、種を作らない。実を結ばない。虫に見つけてもらうための看板として立っている。実を結ばない部分が、実を結ぶ部分のために立っている。
そして役目が終わっても、装飾花は落ちない。ずっとそこに残る。
それでも、変わっていく
白い紫陽花も、咲いているあいだじゅう真っ白なわけではない。咲きはじめは緑を帯び、白くなり、盛りを過ぎるとまた緑がかって、やがて枯れ色に落ちていく。
土には染まらない。けれど自分の時間の中では、ちゃんと変わっている。
外から決められないことと、変わらないことは、別のことだ。白い紫陽花は、決められないだけで、変わらないわけではない。
気をつけていただきたいこと
紫陽花は口に入れてはいけません。過去に、飲食店で料理の飾りに使われた葉を食べた人が嘔吐などを起こした事例があり、行政から注意が出ています。原因になる物質はまだはっきり特定されていません。特定されていないからこそ、口にしない。料理に添えない、子どもやペットが口にしないようにする——それだけは守ってください。
おわりに
白は、目立たない色ではない。梅雨のいちばん暗い時間に、いちばん遠くまで届く色だ。
土に決められず、盛りが過ぎても落ちず、自分の時間で静かに緑へ戻っていく。
——染まらないことは、閉じていることではない。返しているということだ。
——同じ紫陽花の、ほかの色についても書きました。
青い紫陽花——毒を吸って、色にする
ピンクの紫陽花——色を変えて帰ってきた花
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