冬の朝、まだ暗いうちから、雪をかく音がする。
隣の家の老人だ。八十を、いくつか過ぎている。
腰は曲がっているのに、毎朝、自分の家の前と、その先の道までかく。
誰に頼まれたわけでもない。
向かいの家には、小さな子どもがいる。母親が、子を抱えて、仕事へ急ぐ。
老人は、その母親が通る道だけ、特に丁寧にかく。
礼を言われると、いつも同じことを言う。
「ついでだ」
ついで、ではないことを、みんな知っている。
人は、見返りのない親切を、なぜか「ついで」と呼びたがる。
そう呼ぶことで、相手に、借りを負わせないように。
老人の雪かきの音は、今朝も、誰の借りにもならないように、静かに響いている。

