lunasaya

灯火

けんか

隣どうしの、ふたりの男がいた。何が原因だったかは、もう、誰も覚えていない。とにかく、二十年、口をきかなかった。道で会えば、目を、そらす。ある冬、片方の男が、雪で足を滑らせて、動けなくなった。見つけたのは、もう片方の、男だった。男は、ためらわ...
灯火

つけといて

丘の途中の、小さな店。ある夕方、ひとりの少年が、パンをひとつ持って、レジの前で、立ちつくしていた。お金が、足りなかった。店主は、少年の顔を見て、少しだけ考えてから、言った。「つけといていいよ」少年は、何度も頭を下げて、店を出て行った。店主は...
灯火

帰ってきた男

若いころ、その男は、町を出て行った。こんな何もない場所には、いられない、と言って。都会で、十年。何があったのかは、多くを語らない。ただ、ある春、男は、帰ってきた。父の店を、継ぐために。出て行ったときの、威勢は、もうなかった。かわりに、静かな...
灯火

夫を亡くしてから、その人は、庭の手入れを、やめなかった。夫が好きだった花を、季節ごとに、植えた。近所の人は、はじめ、気の毒に思った。いつまでも、亡き人の影を、追っているのだろうと。だが、何年か経って、わかった。その人は、過去に、とどまってい...
灯火

朝の挨拶

その男は、誰にでも挨拶をした。郵便配達にも、登校する子どもにも、犬を連れた老婆にも。「おはようございます」ただ、それだけのことだ。ある朝、町に越してきたばかりの若い女が、挨拶を返さなかった。警戒していたのだろう。知らない人に声をかけられたら...
灯火

雪かきの音

冬の朝、まだ暗いうちから、雪をかく音がする。隣の家の老人だ。八十を、いくつか過ぎている。腰は曲がっているのに、毎朝、自分の家の前と、その先の道までかく。誰に頼まれたわけでもない。向かいの家には、小さな子どもがいる。母親が、子を抱えて、仕事へ...
Luna SĀYA思想

待つ、ということ

すぐに答えの出ることばかりが、増えた。調べれば、たいていのことは、その場でわかる。待たなくてよくなった分、人は、待つことが、下手になった。だが、人の心は、調べても、出てこない。相手が、自分の気持ちを、言葉にできるまで。子どもが、自分の力で、...
Luna SĀYA思想

誰かの「物語」を、奪わないということ

人は、それぞれの物語を生きている。同じ出来事でも、その人なりの意味づけがある。よかれと思って、人の物語に手を入れてしまうことがある。「そんなふうに考えるのはおかしい」「こう考えるべきだ」と。だが、それは相手の物語を、こちらの物語で上書きする...
Luna SĀYA思想

名前のない感情を、抱えておく力

うれしいのか、悲しいのか、わからない。怒っているような、寂しいような。名前のつかない感情に、人はとまどう。今は、何でもすぐに言葉にすることが求められる。気持ちを整理し、明確にし、説明できることが、よしとされる。だが、すべての感情に、すぐ名前...
Luna SĀYA思想

受け取る、という難しさ

与えることより、受け取ることのほうが、難しい人がいる。誰かに優しくされると、申し訳なくなる。助けられると、借りができた気がして、落ち着かない。だが、受け取れない人は、知らずに相手の「与えるよろこび」を、断ってしまっている。人は、与えることで...
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