lunasaya

朝いちばん

露は、朝いちばんに、光る。まだ誰も起きていない、うすい光の中で。いちばん静かな時間に、いちばん澄んでいる。騒がしさの中では、露は、目立たない。静けさの中でだけ、その光は、見える。心も、そうかもしれない。いちばん静かなときに、いちばん、澄んで...

消えてもいい

昼になれば、露は消える。朝のあいだだけの、いのち。短いと、嘆くことはない。露は、降りるべき夜に降り、潤すべき土を潤し、のぼるべき陽に、のぼっていく。役目を、果たした。だから、消えることを、おそれない。人のいのちも、どこか、露に似ている。長さ...

澄んでいること

濁った水は、染みても、土を傷める。露が土を潤せるのは、澄んでいるからだ。だから、露でありたいなら、まず、澄んでいなければならない。うらみ、ねたみ、人を下に見る心――そういう濁りを抱えたまま染み込めば、染みた先を、汚してしまう。露の善さは、そ...

夜のしごと

露は、夜のあいだに、降りる。誰も見ていない時間に、しずかに、仕事をする。朝、人が目を覚ますころには、もう、葉の上で光っている。「いつのまに」と、人は言う。本当に大切なことは、たいてい、見えないところで、進んでいる。誰かが眠っているあいだに、...

弱さ

露は、もろい。指で触れれば、すぐに、くずれる。風が吹けば、葉から落ちる。こんなに弱いものが、なぜ、土を潤せるのか。弱いから、染みるのだ。固いものは、地の上を、流れて去る。やわらかいものだけが、深くまで、届く。弱さは、無力ではない。弱さだけが...

まるい光

草の葉の露は、まるい。その小さな水玉の中に、空が、まるごと映っている。朝の光も、雲も、ひとつぶの露に、宿る。小さいことは、貧しいことではない。ひとつぶの中に、空を映せるなら、それでいい。人も、大きくあろうとしなくていい。自分の場所で、自分の...

地に染みる

露は、朝にだけ、ある。夜のあいだに、しずかに降りて、草の葉に、まるい光を結ぶ。誰も見ていなくても、露は、降りる。そして、陽がのぼれば、消える。だが、消えたのではない。地に、染み込んだのだ。露は、自分の姿を、残さない。ただ、土を、わずかに潤し...
灯火

夜のパン屋

その店の灯りは、朝が、早い。まだ、外が暗いうちから、パン屋の窓に、あかりが、ともる。夜勤明けの人が、その灯りを見て、ほっとする。始発を待つ人が、その灯りに、あたたまる。店主は、客のためだけに、早起きしているのでは、ない。ただ、いいパンを、焼...
灯火

道を聞かれて

その老人は、耳が、遠かった。道を聞かれても、よく聞き取れない。それでも、誰かが道に迷っていると、必ず、立ち止まった。聞こえないなりに、何度も聞き返し、地図を描き、ときには、途中まで、一緒に歩いた。「悪いねえ、耳が遠くて」そう言いながら、決し...
灯火

雨の日、バス停に、傘を持たない女子高生がいた。隣に立っていた、見知らぬ会社員の男が、少し迷ってから、自分の傘を、差し出した。「これ、使いなさい」女子高生は、戸惑った。「でも、あなたが……」「私は、走れるから」男は、鞄を頭にのせて、雨の中を、...
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